天狼星の欠片

自作の小説や趣味について雑多に書きます

2019-07-01から1ヶ月間の記事一覧

理想の死に方

「いつかさ、何十年か先、死ぬ時が来るじゃない。あなたは、どういう風に死にたいとか、考えたことある?」 まだ夫と結婚していなかった頃、何を思ったのか、ふとそんなことを訊いたことがあった。「そうだな……あまり考えたことないけど、愛する家族に見守ら…

俺の神様

どす黒い荒波がコンクリート製の堤防にぶつかり爆ぜる。夜空は雲に覆い隠され、照明らしい照明もないこの場所では僅かに見え隠れする三日月が唯一の明かりだ。 こんなところに来る人なんていない。特に景観が良いわけでもなく(むしろ悪いくらいだ)、下手する…

カタストロフィな恋

隣県で一人暮らしをしているお姉ちゃんからメールが来た。私からはよくメールするんだけど、お姉ちゃんからなんて珍しい。しかも、件名が『お願いがあるの』ときた。お姉ちゃんが私に頼みごとをするなんて、一緒の家に住んでいた頃から一度だってなかった。…

最初で最後の口づけ

「私ね、彼氏できたの!」 見るからに幸せそうな笑顔で、石田陽美が身を乗り出してくる。鼻先が当たりそうなほどの距離だ。嘘をつけない陽美の屈託ない様子も、近すぎるほどのこの距離感も、いつも通りだ。いつもならそれが当然で心暖まるんだけど、今日は正…

籠の中の鳥

籠の中の鳥は、それはそれはもう可愛い。自分にだけ心を開いてくれているとなれば、尚更だ。でも、俺が見たいのは、籠から解き放たれて、自分の翼で羽ばたく鳥だ。たとえ自分に見向きもしなくなったとしても、だ。 *** 窓を開けると、隣家のベランダとは…

落ちてきて、落ちた

いつもと変わらない朝。そのはずだった。目の前を歩いていた女の子が足を滑らせ、落ちてくるまでは――。 『Th12の完全型脊髄損傷』 ベッド脇に立った初老の医師は、重々しくそう告げた。さらに彼は、銀縁の眼鏡を指先で押し上げながら続けた。 「残念ながらも…

Stellar Love

昔々、天の川のそばには天の神様が住んでいました。その娘は、機を織って神様たちの服を作る仕事をしていたため、織姫と呼ばれていました。やがて織姫は、天の川の岸で天の牛を飼っている、彦星という若者と恋をし、結婚しました。二人はとても仲がよかった…

Trick and Trick

この時期になると、決まって台所からは甘い匂いが漂ってくる。せわしなく動き回る亜美。俺が彼女と結婚したのは三年前になる。 思えば付き合い始めてからずっと、彼女はこの習慣を続けてきた。毎年作られる和洋様々なお菓子。だがそれは全て俺以外のやつに渡…

蛍光灯

私は、お世辞でもいい女だとは思えない。私のことをいい女だと称するのは、所詮身体目当ての軽い男だけだ。かくいう私も、人のことなどいえないほど軽い。軽くて、安い。身体の交わりが愛情ありきだなんて思ってた純粋な私は、遥か昔に置いてきてしまった。 …

味のないチョコレート

三十路が目前に迫っているが、妻なし彼女なしの男がいた。それが俺だ。同じく三十路が目前に迫っているが、夫なし彼氏なしの女がいた。それが今俺にチョコレートを渡している、目の前の女だ。コイツとは高校大学と同じで、住んでる場所も近くて未だ交流があ…

恋は実力行使で掴むもの

床を踏み鳴らす音に、気迫のこもった掛け声。そして竹刀と竹刀のぶつかる音に混じって時々聞こえる、面布を捉えた際の爆ぜるような気持ちいい音。中学から剣道を始めて六年目になる俺。剣道の何が好きかと訊かれたら、こういった独特の音だと答えるだろう。…

一年に一度、もう一人の愛しい人

俺の妻は、酒を呑まない。 その理由というのはごく単純なもので、極端にアルコールに弱い体質なのだ。二十歳の誕生日に酎ハイの缶を半分も空けないうちに記憶がなくなるというにわかに信じがたい体験をして以来、お酒は呑まないと心に決めたという。そこまで…

小さなレストランの一人娘とバイトの俺

冬になると雪こそ滅多に降らないものの、暴風警報が出てるんじゃないかと思うほど強烈な北風が吹き付ける。田んぼか、大きくて二階建て程度の一軒家くらいしかないこの地域では、勢いを殺されることのない突風が容赦なく襲う。その風故、平均気温でいえば日…

指輪と男

今日は部活が長引いてしまったので、もう夜の八時を回ってしまった。夏の終わりにもなれば八時過ぎはもう真っ暗だ。普段通い慣れた道でも少々不気味なので、俺は自然と早足になっていた。 「あの……」 急に声をかけられて、ビックリして叫び出す所だった。落…

『エンキョリ片想い』後日談 アラタナ便り

いつもと同じような目覚め。それなのにどこか清々しさを感じてしまう。今日からまた新しい一年の始まりだ。布団から飛び出して、窓を思いっきり開け広げた。「って、さっむーい! というか、またたーんと雪降ったんやなあ。後で雪かきせんといかんわあ」 毎…

『エンキョリ片想い』最終話 僕の隣には

『返事は柴崎君の気持ちが固まってからでいい』 そう一言だけ書かれたメールが届いたのに気付いたのは、家に帰ってからだった。 「僕の気持ち、ねえ……」 吉川さんに指摘されたとき、僕が雪季のことを想っていると確信した。だがそれは、その吉川さんによる一…

『エンキョリ片想い』第4話 忘れられない

いつの間にか桜は散り、じめじめした季節も越えた。夏の気配が見え隠れするようになるこの時期、大抵の人は冬服から夏服へと切り替わる。もちろん僕も、吉川海未(よしかわうみ)も。 僕と吉川さんの距離は、この三ヶ月ほどで随分縮まったと思う。最初の頃あっ…

『エンキョリ片想い』第3話 海の発見

四月になり、僕はついに高校三年。受験生。 まだ浮わついた奴も多いが、一部の先を見据えた人たちはもう引き締まった顔をしている。まあそんな真面目な奴等の大半は、三年になる前から引き締まった顔をしているものだが。僕はどうなのだろう? ちゃんと引き…

『エンキョリ片想い』第2話 近づいて別れて

高山駅を越えたところにある、古い町並み。かつて城下町の中心、商人町として発展していた、高山を代表する観光地。そこに今、僕は従妹の美緒と、その友達の雪季と一緒に訪れている。とはいえ地元民の美緒と雪季が観光目的で訪れるはずもなく、ただ単に買い…

『エンキョリ片想い』第1話 雪との出逢い

蒸気の吹き上がる特急列車ワイドビュー飛騨から降りると、刺すような冷気が僕を襲った。慌ててマフラーに口を埋める。改札で初老のおじさんに切符を手渡すと、目の前に一面の雪原が広がっていた。 「三時間、か。思ってたより時間経ってなかったんだな」 し…

『エンキョリ片想い』あらすじ・目次

ごくごく普通の高校生、柴崎健斗(しばさきけんと)。親戚を訪ねた雪国で彼は、雪のように美しい少女に一目惚れする。だが健斗と彼女の住む地は直線距離で150キロ以上離れていて、そう簡単に会いに行くことも出来ず…… そんなほろ苦くてもどかしい、エンキョリ…

高階珠璃と申します

初めましての方は初めまして。既に面識ある方はいつもお世話になっております。 高階珠璃と申します。 まずは簡単に自己紹介させていただきます。 趣味は小説の執筆と自転車、道路、山歩き、ゲーム、漫画、アニメ等々。 多趣味だけど同時進行はできず、どれ…