天狼星の欠片

自作の小説や趣味について雑多に書きます

『エンキョリ片想い』後日談 アラタナ便り

 いつもと同じような目覚め。それなのにどこか清々しさを感じてしまう。今日からまた新しい一年の始まりだ。布団から飛び出して、窓を思いっきり開け広げた。
「って、さっむーい! というか、またたーんと雪降ったんやなあ。後で雪かきせんといかんわあ」
 毎年この時期は同じようなものとはいえ、かなりの力仕事である雪かきには全く慣れる気がしない。特に今年……ううん、去年は例年以上に降った。高山本線東海北陸道も国道も寸断され、一時陸の孤島と化したんだっけな。ここ、岐阜県高山市は。
「美緒(みお)ー起きてんのー? 年賀状来とるんやし、早う降りてきんさい」
「わかったー今行く」
 もう年賀状が来とる時間だったんだ。新年からどんだけ寝とるんやろ、私。

「こら美緒。雑煮食べながら年賀状見ない。そんなんだからいつまでたっても健斗(けんと)君に子供扱いされるんやよ?」
「えー健斗なんて勝手に言わせとけばええって。それより見て! 雪季(ゆき)ちゃんから年賀状来とるよ」
 遠山(とおやま)雪季。三年前の四月に東京の高校に進学してしまった、私の親友。そういえば、雪季ちゃんと健斗が会ったのって、ちょうど二年くらい前になるんか。あれから雪季ちゃんは相変わらず携帯を買っていないらしく、文通したり電話したりと、一昔前のようなやり取りを続けている。そんなことをしているのは雪季ちゃんくらいで、それはそれで新鮮だけど。健斗は高校時代にできた恋人と一緒に第一志望の国公立大学に入り、お隣長野県で終始いちゃいちゃしているらしい。吉川海未(よしかわうみ)というその彼女さんは写真でしか見たことがないけど、どことなく雪季ちゃんに似てるなと思うとともに、雪季ちゃんとは違うハツラツさを感じた。そんなところが大人しめの健斗に合っているんじゃないかな。最初に名前を聞いたときは思わず某アニメのキャラクターを思い浮かべちゃったけど。どちらにせよ、健斗が確実に前に進んでいるようで、私としては一安心だ。だって、一時期健斗は、私が見てもはっきりわかるほど雪季ちゃんに惚れ込んで、思いつめていたから。だからって、連絡を取るたび惚気られるのは勘弁してほしいけど。
「雪季ちゃん、もう大学決まったんやあ。ええなあ」
 推薦で年内に大学を決めちゃうなんて、さすが雪季ちゃんだな。私は推薦取れなかったから、これからの一般入試で勝負だけど。雪季ちゃんと同じ、東京の大学に。
「あっ、健斗からも年賀状来とる」
 差出人住所が長野になってるってことは、あいつ今年は実家に帰ってないんやな。親不孝もんが。
「うっわ、相変わらず惚気とる。新年からヤなもん見た」
 今度こっち来たときにしっかり言っとかんといかんなあ。あのどうしようもない従兄には。

「さーてと、お餅もたーんと食べたことやし、もう一眠りしてこよー……」
「みーおー」
「冗談やってお母さん」
 新年を清々しく迎えるためにも、まずはこの鬱蒼と積もった雪をどうにかせんといかんよね。そして、雪季ちゃんや健斗にいつまでも負けてらんない。私も今年は飛躍の一年にするぞー!

 

 

『エンキョリ片想い』最終話 僕の隣には

『エンキョリ片想い』あらすじ・目次