天狼星の欠片

自作の小説や趣味について雑多に書きます

連載小説『エンキョリ片想い』

『エンキョリ片想い』後日談 アラタナ便り

いつもと同じような目覚め。それなのにどこか清々しさを感じてしまう。今日からまた新しい一年の始まりだ。布団から飛び出して、窓を思いっきり開け広げた。「って、さっむーい! というか、またたーんと雪降ったんやなあ。後で雪かきせんといかんわあ」 毎…

『エンキョリ片想い』最終話 僕の隣には

『返事は柴崎君の気持ちが固まってからでいい』 そう一言だけ書かれたメールが届いたのに気付いたのは、家に帰ってからだった。 「僕の気持ち、ねえ……」 吉川さんに指摘されたとき、僕が雪季のことを想っていると確信した。だがそれは、その吉川さんによる一…

『エンキョリ片想い』第4話 忘れられない

いつの間にか桜は散り、じめじめした季節も越えた。夏の気配が見え隠れするようになるこの時期、大抵の人は冬服から夏服へと切り替わる。もちろん僕も、吉川海未(よしかわうみ)も。 僕と吉川さんの距離は、この三ヶ月ほどで随分縮まったと思う。最初の頃あっ…

『エンキョリ片想い』第3話 海の発見

四月になり、僕はついに高校三年。受験生。 まだ浮わついた奴も多いが、一部の先を見据えた人たちはもう引き締まった顔をしている。まあそんな真面目な奴等の大半は、三年になる前から引き締まった顔をしているものだが。僕はどうなのだろう? ちゃんと引き…

『エンキョリ片想い』第2話 近づいて別れて

高山駅を越えたところにある、古い町並み。かつて城下町の中心、商人町として発展していた、高山を代表する観光地。そこに今、僕は従妹の美緒と、その友達の雪季と一緒に訪れている。とはいえ地元民の美緒と雪季が観光目的で訪れるはずもなく、ただ単に買い…

『エンキョリ片想い』第1話 雪との出逢い

蒸気の吹き上がる特急列車ワイドビュー飛騨から降りると、刺すような冷気が僕を襲った。慌ててマフラーに口を埋める。改札で初老のおじさんに切符を手渡すと、目の前に一面の雪原が広がっていた。 「三時間、か。思ってたより時間経ってなかったんだな」 し…

『エンキョリ片想い』あらすじ・目次

ごくごく普通の高校生、柴崎健斗(しばさきけんと)。親戚を訪ねた雪国で彼は、雪のように美しい少女に一目惚れする。だが健斗と彼女の住む地は直線距離で150キロ以上離れていて、そう簡単に会いに行くことも出来ず…… そんなほろ苦くてもどかしい、エンキョリ…