天狼星の欠片

自作の小説や趣味について雑多に書きます

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

ホワイト・バースデー

記録的な大雪が日本中で降った、今年の冬。それももう過去の話。今は春だ。 そう、季節は春だ。だけど私に春が訪れるなんて期待していない。あの鈍感太一のことだから、きっと無難なクッキーあたりを、いつもの余裕な表情で渡してくるのだろう。 あいつとは…

バレンタイン・バースデー

漂う甘い匂い。そわそわする男子。そう、今日は世間でいうバレンタインデーだ。 とはいえ俺は、他の男みたく女の子からチョコを貰えるんじゃないかなんて淡い期待はしていない。所詮バレンタインなんてチョコ会社の陰謀。それに最近は女の子どうしでチョコを…

噞喁(げんぎょう)の恋詩(うた)

「噞喁って知ってるか?」 隣で色鮮やかなカクテルをチビチビと呑んでいる友人に問いかけると、彼女は小さく首を傾げた。「げんぎょう? 知らないよー。相変わらず、シュン君は難しい言葉好きだねえ。どういう意味なの?」 そう言って口を尖らせる素振りはあの…

お菓子と悪戯とパンツと私

「トリックオアトリート!」 放課後の夕日が差し込む教室に私の声が響く。今ここには私と目の前にいる少女の二人しかいない。 今日は十月三十一日。ハロウィンだ。ハロウィンといったら悪戯だ。悪戯といったら――。「さあ愛依、諦めてパンツを見せるんだ」 壁…

孤島の伝聞

海の果ての果てに、一つの大きな島がある。そこでは我々の世界からの干渉が一切無い、独自の世界が存在していると言い伝えられている。 ある人は「一面穀物が耕されている、農業が盛んな島だ」と言い、またある人は「険しい山脈が連なり、山の裾には広大な草…

瀑布

僕は山歩きが趣味だ。虫や鳥の鳴き声が奏でる自然の交響曲を聴きながら、一人黙々と歩く。これこそ都市化の進んだ日本における、貴重で贅沢な時間だと思っている。だから大概、富士山や高尾山のような有名どころの山よりも、地域の自然歩道のような地元の人…

最果ての地にて

30XX年某月某日。温暖化、寒冷化、砂漠化、隕石落下、核戦争。幾度となく訪れた地球滅亡の危機を、人類は奇跡的に生き延びた。最盛期と比べると一握りの、全世界で一万人程度。大幅に人口を減らしたのと引き換えに、生き残った人々は二千年代とは比較になら…

ことだま

「言霊って知ってる?」 僕の枕元に立った幼馴染みの少女は、突然そう訊いた。「人間が紡ぐ言葉の一つ一つには、魂がこもっているという、日本人に古くからある考え方。だよな?」 彼女は、黙って首を縦に振った。「言霊の力は、確かに存在するの。そしてそ…